加藤コミッショナーの心

プロ野球の統一球を今季から飛びやすい仕様に変更しながら公表してこなかった問題で加藤コミッショナーのリーダーとしての資質が問われている。

この問題は色々な角度から見ることができるが、ここでは加藤コミッショナーの心のありようについて考えてみたい。

まず、6月12日に行われた最初の記者会見だ。

このときの加藤コミッショナーは明らかに怒っているように見える。元々、加藤コミッショナーは穏やかな人柄で知られるが、目が怒り狂っている。

その目は、「なんで俺がこんな目に遭わなければいけないんだ。◯◯の不始末を俺に押し付けて。自分の尻は自分で拭け」と言っているように見える。

◯◯が誰かというのは、今のところ不明だが、野球関係者や報道関係者などの事情通には明らかなようだ。

「昨日まで自分は知らなかった」とか「不祥事だとは思っていない」という発言もさることながら、記者会見での怒りに満ちた目や事務局長に対するぞんざいな態度が世間の猛反発を招いたように思える。「どういう事情があるかは分からないが、あの人は、人の上に立つ人ではない」というのが世間一般の印象であろう。

ことの成り行きを苦々しいと思いながらも、◯◯に遠慮して黙っていたら、いつの間にか自分が悪者にされてしまったという状況に対する怒りは分かるが、この時点では心のマネジメントが全くできていない。残念である。

次に、昨日行われた12球団への説明会である。

すでに「辞めろコール」がかなり盛り上がっていたので、さすがにまずいと思ったのであろう。少し、神妙な態度になっている。しかし、相変わらず、目には怒りが宿っている。

三者機関を設定して真相を究明することになったが、「本当に悪いのは◯◯だ」ということを第三者の力を借りて明らかにするぞ、という宣戦布告を宣言したように思える。昨日まで、◯◯に遠慮してきた結果、自分が悪者にされてしまったので、外圧を利用して形勢を逆転しようという戦略であろう。

次いで、「ガバナンスの責任を取って辞任するのか」と報道陣に聞かれた時に、「それを決めるのは自分ではない」と答えていたが、これは自分にガバナンスがないと言っていると同じことであり、現在のコミッショナー制度にはガバナンスがないという真相を明らかにしようという戦略なのか、あるいは、まだ、心の整理ができていないためなのか、定かではない。

正解は、「うやむやにならないように、第三者機関を設置して真相を明らかにしたうえで、ガバナンスを立て直すのがコミッショナーとしての責任である」という言い方ではなかっただろうか。

実は、加藤コミッショナーは僕の外務省の先輩であり、最も頭の良い3傑の内の1人である。(後の2人は、小和田元国連大使と岡崎和彦元タイ大使。)条約課長もされた方で、非常に論理的で緻密な頭脳の持ち主だ。田中眞紀子が外相だった時に、本来、次官候補だったが、彼女に潰されては困ると、駐米大使に緊急避難させた外務省の宝である。

ある程度出来上がった枠組みの中で、優れた頭脳を駆使して局面を打開するのは得意だが、自分の心のあり方が枠組みそのものを変えてしまう政治的状況で局面を打開するのはあまり慣れていないのかも知れない。何しろ頭のいい人なので、すぐに、このダイナミズムにも気づくだろう。次の動きを注目したい。