この半年

最近、人に会うと、「あれっ、いつ戻ってきたんですか?」などと言われる。半年もすっかりご無沙汰していた僕が悪いのだが、この半年、ずっと福井にいたのである。では、何をしていたのか。選挙後一ヶ月はお礼とお詫びの挨拶で県内を回っていた。随分、回ったつもりだが、まだまだご挨拶に伺えないところがある。深くお詫びしたい。

この間、東京に戻ってこないかという話はいくつかいただいた。新しいシンクタンクを立ち上げるので研究員として来て欲しいとか、会社で働いてみないかとかいうお話である。ご好意が身にしみたが、僕は故郷に骨を埋めるつもりで帰ってきたので、いまさら、東京にもニューヨークにも戻るつもりはなかった。

もっとも、今回、福井市長選挙に負けたことで、当面、政治家としての目途が立たなくなった。さて、どうしようかと考えたときに、政治家としてやろうとしていたことを民間人としてやってみてはどうかと考えた。ちなみに、福井市長選挙のときの公約は、「市長自らが福井ブランドのトップセールスマンになります」というものだったので、以前から「こんなにおいしいのになぜ知られていないんだろう」と思っていた福井の海産物の販売を思い立ったわけである。幸い、8年間の政治活動で培った知名度と信頼があったので、「あんたがやるんなら協力してもいいよ」という生産者の方がすぐ現れた(現在7社)。

政治活動をしていて分かったことがある。農林水産業に関する政策はすべて生産能力の向上に向けられているということだ。農業では、構造改善事業と呼ばれる毎年1兆円に及ぶ耕地整理事業、林業では林道整備、水産業では漁港整備などすべて生産能力の向上に向けられたものだ。ところが、現在の日本の食料自給率はわずか40%である。なぜか。農林水産業の生産者には生産能力があっても、販売能力がないからだ。その一方で、海外からの農林水産物の輸入には大手商社と大手流通業者が絡んでいるから、国内の生産者は太刀打ちできない。また、戦後政治の大きな流れとして、アメリカで日本の工業製品を売る代わりに農産物の輸入自由化にじりじりと応じてきたという事情がある。

つまり、いま農林水産業の生産者にとって最も必要なのはマーケティング能力であり(これは農林水産業に限ったことではないが)、格好良く言うとそのお役に立とうと思ったわけである。

自分でやってみると商売は難しい。一つ問題を解決すると、その何倍もの問題が吹き出して来る。会う人ごとに「あんたには商売は向かないよ」と言われる。ところが不思議なことに、そう言ったその人が暖かい手を差し伸べてくれる。有難いことである。商売も仏道修行である。