2つの日本

 ずいぶん寒い日が続いていたが、3月に入った途端に暖かくなった。今朝、いつものようにオーバーコートを羽織って出かけたが、もうコートを着なくても大丈夫な陽気だった。毎日の天候はめまぐるしく変わるが、気候は確実に春に向かっている。

 1月に東京に引越し、しばらく前から金融の中心地である兜町(かぶとちょう)に職を得て働き出した。ニューヨークでは、金融専門の弁護士としてウォールストリートで働いていたので、東京では兜町で働こうと思っていた。もっとも、仕事の比重としては、弁護士よりもIRの方が大きい。

 IRというのは、Investor Relations の略で、投資家相手の広報活動である。ややこしい話は避けるが、企業には企業本来の「本質価値」と資本市場で評価される「市場価値」がある。

 株価が割高とか割安というのは、本質価値に比べて市場価値が割高とか割安という意味である。簡単に言うと、IRの仕事は企業の本質価値と市場価値の乖離をなくす仕事である。企業の本質価値に比べて市場価値が低いとM&Aの対象になる。ライブドア日本テレビを買収しようとしたのがいい例である。

 これまで自分の会社の株価に無関心だった経営者が、うかうかしているとM&Aの対象になるということを知って、最近、急速にIR活動に力を入れだしている。金融の知識と政治活動で培ったコミュニケーション能力の両方を生かすことができると考え、IRの世界に入った。

 クライエントはほとんど売上高が数千億円から数兆円の大企業である。日本を代表する大企業の人たちと一緒に仕事をしていると、つくづく、日本は2つになったんだなと感じる。国際競争力を持ち、グローバル経済に積極的に参加している企業で働く人たちの日本とそうでない人たちの日本である。

 よく、東京と地方の格差ということが言われるが、東京で暮らしてみると、実は東京の中にも地方があることが分かる。地方から東京に行くと、どうしても林立するビル群に目が行ってしまうが、東京という街の実態は、そのほとんどが地方都市と変わらない下町で、その中に島のように大企業が集まる地帯が点在しているというものである。

 つまり、東京の中にも、グローバルな大企業で働く人たちの東京とそうでない人たちの東京の2つがある。もっとも、東京の中の地方といっても、人口は圧倒的に多いので、人口が減る一方の地方都市と比べると、よほど活気がある。

 いまの日本で問題なのは、この2つの日本、2つの東京の格差がどんどん拡大していることだ。この問題については山ほど書きたいことがあるが、今日のところは、近況報告と問題の指摘だけにとどめておきたい。