自衛隊機の派遣見送り

 中国への自衛隊機派遣が見送りになった。実現していれば、日中関係だけでなく、将来のアジアにも大きなインパクトを与える画期的なことだと大いに期待していたが、中国政府が発表する前に、日本側が発表する形になっていたのが気になっていた。
 どうしてこういうことなるのか。外務省にしても、防衛省にしても、何としても実現したかったはずだから、外務官僚や防衛官僚から漏れたわけではないだろう。これだけの話になると、総理、外務大臣防衛大臣官房長官だけでなく、自民党の幹事長や政務調査会長、国会の外交委員長や防衛委員長にも事前に根回しをする必要がある。それぞれの政治家にはいわゆる番記者がついているから、根回しを受けた政治家の一人が、得意そうに、「実は、ここだけの話だが」と記者に話をすると、あっという間に広まってしまうのである。
 こうした機密管理の弱さでは、日本は世界的に有名である。大事な話を日本にすると必ず漏れるというのが定説になっている。だから、役人が大事な話を政治家にしなくなる。話をしたくても、話をすれば事前に漏れて、話そのものが潰れてしまうからだ。

 ところで、なぜ、実現していたらそれほど画期的なことだったかというと、日中関係が前進して、日中間で軍事的な協力が可能になると、中長期的にアジアにおいてもヨーロッパにおけるEUのような地域統合が視野に入ってくるからだ。少子高齢化で衰退期に入った日本が再び成長軌道に乗るためには、中国やインドなどの新興国のエネルギーを取り込むことが不可欠である。そのための受け皿としてアジア経済統合体は極めて魅力的なのである。今回は残念ながらその夢は幻と終わったが、お陰でアジアにおける一つの方向性が見えてきたのではないだろうか。