米大統領選挙が意味するもの

 予想通り、民主党オバマ氏が大差で当選した。いろいろな意味で意義深いが、他のメディアで書かれていないと思われることで、僕なりに感じたことをいくつか書いておきたい。
 まず、基本的に、今回のオバマ氏の勝利は、アメリカの政治の周期的な動きに沿ったものであること。簡単に言うと、アメリカの政治は、自由放任主義レッセフェール)と格差是正の間を振り子のように揺れる。自由放任主義レッセフェール)、あるいは、最近の言葉で言うと、市場至上主義の下で、貧富の格差が拡大すると、必ず、格差是正を掲げる民主党の大統領が当選する。1920年代のバブル(そして大恐慌)直後のルーズベルト大統領、戦後高度経済成長後のケネディ大統領、レーガノミクス後のクリントン大統領、そして、今回のオバマ氏である。
 次に、米国発の世界的な金融危機と併せて、今回のオバマ氏の当選は、再び、ケインズ式の経済政策への回帰を意味すること。レーガン大統領の下でのサプライサイド経済が成功して以来、財政出動によるケインズ式の経済政策はすっかり影をひそめ、もっぱら貨幣供給量を重視するマネタリズムが経済学と経済政策の世界的主流となってきた。ところが、サブプライムローン問題に端を発する今回の世界的な金融危機で、これまで世界経済の成長を牽引してきたのは、80年代から一貫して続いてきたドル本位制のスーパーバブルであったことが明らかになったのである。
 詳しい説明はややこしいので避けるが、信用拡大によるスーパーバブルという需要があって初めて、財政出動による有効需要の創出よりも供給サイドの生産性の向上に注力できるわけで、アメリカにおけるスーパーバブルが弾けてしまうと、これを埋め合わせるだけの有効需要を米国も含めた世界各国が財政出動で生み出さなければ、世界同時不況に陥ってしまう。つまり、ケインズが構築した「一般理論」の前提である1930年代の世界経済とまったく同じ状況になっている。
 この世界的状況の変化が日本の政治に及ぼす影響は大きい。なりふり構わぬ選挙対策だった麻生政権の景気刺激策が、世界的な需要不足の中での正しい経済政策として、また、世界同時不況を回避するための国際的な協調行動として正当化されるからである。したがって、今回の解散延期は麻生政権にとっては正解になろう。それで、政権交代が実現できないとしたら、日本にとっては長期的に不幸なことであるが…。